2023年12月25日月曜日

『遠距離現在』

 国立新美術館で開催予定の『遠距離現在』の図録をいただいた。



展示はまだ行けてないのだが、この図録に掲載された福永信さんの掌編「遠距離現在」がよい。


やはり福永さんが書く少年の世界はいい。章の番号が「1」ばかりなのも、直線的に進んでいくのではなく「それぞれが独立して並置されている現在」、という感じで、工夫がされている。死後の世界を見に行って飛び降りた少年が走馬灯を見て、でも走馬灯が暴走して体験していない未来まで見え、その中でまた冒頭に戻って走馬灯を見るという入れ子の話が好きだ。最後の死にかけている少年の夢もいい。周りの大人たちは勝手に「短い」人生を惜しむけれど、少年には常に「現在」しかなくて、その中での時間はすべて充実しているもので、そう思うといくつで死のうが長短に関係なく人生は充実しているものにも思えてくる。すべて夢の中の話だけれど、夢が「現在」ならばその中でぼくらはいくらでも遠くに行くことができる。これは「文学」にも似ている。


2023年12月21日木曜日

「作家エトガル・ケレットは今イスラエルで何を考えているか」

 現在発売中の『新潮』24年1月号で、「作家エトガル・ケレットは今イスラエルで何を考えているか」という翻訳とインタビューからなる記事を書きました。イスラエルの現在を考えると本当に苦しい。ガザの人々の苦境を想うと胸が締め付けられます。10月7日から始まったハマスのテロの犠牲者はイスラエル市民で、しかしパレスチナに人々から家を奪ったナクバを起こしたのはイスラエルで、そして今またガザでパレスチナの人々が命を奪われている。どちらの側にも犠牲者がいて、各国では、イスラエルを支持する声もあれば、パレスチナへの連帯を示すデモも行われている。ニュースはその様子をわかりやすく白黒明確に伝えるが、現実はどこまでいってもグレーだ。

エトガル・ケレットは、この問題について共感が「選択的」になって、みながどちらかのサイドについてしまっていることを批判する。最後の一文はとくに強いので、ぜひ読んでみてほしい。中東の問題についてニュースとは異なる視点を得られると思う。






2023年12月20日水曜日

青森県立美術館奈良美智展「ここから」

 青森県立美術館で開催中の奈良美智展「ここから」の図録にジョシュ・クンさんの論考の翻訳で参加しました。10月に行きましたが、m奈良さんが高校生の時に参加していたロック喫茶の再現を始め、ここならではの奈良さんのルーツまでさかのぼる展示になっております。雪の中の青森県立美術館へ、ぜひ!(アトム氏からもよろしくとのこと)


2023年12月19日火曜日

KONANプレミア・プロジェクト「文学、あります」第一回文芸イベント 村田沙耶香さん公開インタビュー「外側に紡ぐ物語」

 KONANプレミア・プロジェクト「文学、あります」第一回文芸イベント 村田沙耶香さん公開インタビュー「外側に紡ぐ物語」は12月9日に開催の予定でしたが、12月23日(土)に延期となっております。ご都合のつく方は、今からでも申し込み間に合いますので、下記甲南大学図書館サイトから申し込みください。

常識や当たり前の「外側」に物語を立ち上げてきた村田さんからどんなことばが聞けるのか、楽しみです!


https://www.konan-u.ac.jp/lib/?info=event20231209