2017年6月12日月曜日

The ピーズ 30周年 武道館

 ピーズが好きだ。まわりに聴いている人はいないし、あんまり人に勧めることもない。まあ勧められて聴くタイプの音楽じゃないし、わかる人は自然にハマるし、わかんない人はわかることはない、そんなかんじの音楽。とはいえ、自分も聴いているのはこの10年くらいのことで、デビュー当時のことは知らない。トモのカステラは大学生時分によくかかっていた記憶があるけど、ピーズは当時は知らなかった。
 それがなんでか聞き始めたのがたぶん2005年くらいで、30代なかば、人生迷いまくりのオッサン初心者にはまあ歌詞が刺さった。ダメな歌詞。でもその「ダメ」はむき出しで、ありのままのダメというか、ダメからプラスにもマイナスにも向かわないのがいい。「ダメだけど頑張るんだ」にも「ダメでもうほんとダメで死にたい」にも行かない。ただの状態としての「ダメ」。簡単にプラマイどっちかに転化して物語にできるようなのは、たぶん嘘だし、なんか安いんだな。ピーズの歌詞は安くない。骨削って書いて出てきた骨髄みたいな詞だよ。
 CDが出れば買って聴き、ライブも行くようになった。酒飲んで音楽に身をゆだねるのが楽しい。「音楽に、ただ、ゆらゆら」。行くときはいつも一人だ。会場には同じようなオッサン一人客はけっこういるので、話しかけてみることも多いが、あまり弾まない。そういう人たちに愛されているバンドである。連帯しがたい不器用なオッサンたちに。

 それが30周年で初の武道館。行かないわけにはいかない。



 唯一のピーズ仲間である同業者のSさんも九州から参戦するというし、Sさんの友人のあこちんもまた参戦と言うから、これまた行かないわけにはいかない。早々にチケットを申し込んだ。

 一曲目はなにか予想。Sさんは「ノロマ」だという。ワタシも大好きな一曲だ。

    戻らない人生も
    半分はとっくだな
    間違いもあっためよう
    いまさらリセットもないさ

    死ぬまで泳いでいく
    くたびれたかいそうかい
    溺れるまでサボるかい
    誰も手出し切れないさ

「ノロマ」が30年かけて武道館にたどり着いた。ゆっくりだけど「しょいこんで続」いてたどり着いたのか。そう思うと、むむむ、この武道館の文脈にはまる一曲だねえ。

 ワタシは「とどめ」と予想。やはり代表曲的な感じで、でも「生きのばし」はさすがに後半だろう、で、あのギターのイントロが鳴ってそのあと「ウォー!」って盛り上がるの図が見えたし、

    きたー、チクショウ おせーぞ
    今までなんだったんだろ
    これでまんまとばかっきりだ
    好きなよにぶっ殺さしてやる

の歌詞が、クライマックスの武道館に逆の意味でハマる、ってことで「とどめ」。

 会場でお隣に座った埼玉からの兄さん二人組ともその話をしたところ「「鉄道」だったら泣いちゃいますねえ。「やっと、こんないいとこまで、たどりついてしまった。ああ、お疲れさんだよ」ってあの歌詞で始まったら」とのこと。これまた鋭い。コンテクスト的にはまる選曲。すばらしい。

 武道館のまわりではみんな酒飲んでる。なんなんだこれは。トイレ行って聞き逃すのは嫌なのでこの日は飲まないと決めていたワタシであったが、缶ビール片手のSさんを見て、即座に決意が揺らぎ500ミリ缶を買いに走る。

 6時半開演。すぐに始まった。



 なんだかドリフのヒゲダンスみたいに登場。

 三人とも楽しそう。こちらも楽しい。みんなハッピー。やっとハッピー。

 なんと一曲目は「ノロマ」、二曲目は「とどめ」、三曲目は「鉄道」。ワタシらの予想が三曲続いた。やるやん、おれら。

 3時間みっちりのライブ。どの曲もよかった。

 なかでもキモチよかったのが「真空管」。あと「ゴーラン」のベースのカッコイイこと。「脳ミソ」の最後の方の「脳ミソ半分取っちまいたい」のとこ、きもちいかった。「何様ランド」も沁みた。

    仲間はずれをさみしがる余裕ねえ
    もう興味ねえにした
    わがままベスト 流されねえ

 最後の曲「グライダー」のイントロで客電がパッとついて場内明転したときの多幸感ったらなかった。鳥肌立った。

    燃料タンク 地図 ナビゲーター
    ハナからないよ しまいまで
    端から見りゃ そりゃのんびり
    でもとっくにギリギリなんだ

 端から見りゃ極楽とんぼのグライダーだけど、本人シャカリキ(これは「ノロマが走っていく」にも共通するモチーフ)ってのが、これまた「グライダーがやっと武道館にたどり着いたか」って感慨深い。

 ほんでそのあと

    ぼくはグライダー
    みんなグライダー

 って歌詞で、「あ、そっか、ここに集まったファンもみんな、はたから見りゃのんびりだけど、ほんとはギリギリで必死こいて飛んできたグライダーたちだ」って思ったらじーんときた。

 30年、人によって長短はあるけど、ピーズとともに「同じ青な空」をしゃかりきで漂ってきた全国のグライダーたちが、武道館に一時着陸した奇跡のような一夜、「夢のような夢」だった。

 演奏終わっても名残惜しそうになかなかステージを去らない3人の様子を見てまた胸が熱くなる。

 客出しで「好きなコはできた」がかかるが、誰も帰らない。みんな一緒に歌ってる。「幸せなぼくら」たちで満たされた幸せな空間。

ありがとう。