2017年8月29日火曜日

『アルテリ』

日本有数の文芸好きのための書店、日本一うちの近くにあってほしい、そして毎日通いたい書店である熊本の橙書店が出している文芸誌『アルテリ』の3,4号を、寄稿されている松嶋圭さんよりご恵投賜る。嬉しい。橙書店と松嶋さん、店主の田尻さんは、ワタシにとっては魔法のような出会いだったから(http://akkitom-ontheroadtonowhere.blogspot.jp/2017/…/in.html)、その松嶋さんがご自身で書かれた短編の載った、田尻さんが作られている『アルテリ』を送ってくださったというのがたまらなく嬉しい。

四号掲載の「書き初め」は戦後台湾から引き揚げてきた九州の「島」のおばあちゃんの語り。台湾という民族と言語が交差した場所ということで温又柔さんを思い出し、九州のヴァナキュラーな言葉に同じく青森の方言で書く木村友祐さんを思い出す。いろいろつながるなあ。「毛利さん」が改姓前の「毛京華」という署名で書いた書には、どのことばで、どんなことが書いてあったのだろう?そして「私」が最後に書く書初めもまた、どのことばで、どんなことが書かれるのだろう?

 三号掲載の「陽光」、祖父母と浜の記憶。わからなかったこととあとでわかったことと、わかったのではなかったのかもしれないこと。祖父のタップダンスが目に浮かぶようで、無理して食べ続けたいちごジャムの食パンの味が感じられるようで、そして浜の陽光が自分の記憶にもあるような気がした。いい余韻が残る作品。好きだなあ。

 まだ他の方が書かれたものは読めてないんですが、『アルテリ』、とってもすてきな雑誌です。また、編集後記がいいんですよ、毎回。気の利いた本屋さんなら置いてます。見つけたら手に取ってほしいです。

2017年8月9日水曜日

ヴィスコンティ『若者のすべて』&ニコラス・ゲイハルタ―『人類遺産』at元町映画館

夏休みになって授業がないので毎週水曜のメンズデーを利用して元町映画館に通ってる。いつ行ってもおもしろそうな映画をやっている。そのうえ近所には安くておいしい店も多い。

映画を見るのは好きだけど系統立てた知識はないのでヴィスコンティも知らずに見に行った『若者のすべて』。いやあ、よかったなあ。脚本、セリフがとてもいい。ロッコ(アラン・ドロン)が娼婦のナディアに「信じる」ことの大事さを説いてせっかく二人の愛の世界ができたのに兄貴の「人間の屑」(名前忘れたが、ほんまに屑だと思ったので名演である)が嫉妬に狂ってナディアを犯し、もうここで終わるしかないじゃん、と思いきやそのあとがまた素晴らしい。ロッコが言う、故郷では家を建てるときに最初に通った人の影に石を投げた、それは「いけにえ」必要だからという話、この物語のいけにえはだれなのか?ロッコは自分を犠牲にしていけにえになる人だが、いちばんかわいそうなのはナディアであるし、ある意味「人間の屑」もいけにえかもしれず、母ちゃんもそうか、ああみんなそうなのか、と思う。弟チーロが言う「ロッコはみんなを許して聖人だけれど自分を守れない」ってセリフもグッと来た。人物の顔をフレームの右側に寄せて配置してクローズアップするあの撮り方ってたぶん、なんか呼び方あるんやろな。

『人類遺産』の監督の『いのちのたべかた』は見ていたので、それだけで観る。世界廃墟巡り、だと思う。というのもキャプション、ナレーションが一切ないのでどこの国なのかわからない。フクシマと軍艦島が日本なのはさすがにわかるが。すべてのカットがカメラ固定で20-30秒。視点は一切動かない。でも、写真じゃなくて映画ならではなのは、そこに静止画の中の動きと音が入り込むからで、どこに行っても風が吹き、どこに行っても草花が揺れ、どこに行っても鳥が鳴いている(ハエの音はちょっとあざとい気がした)。最初は「人間ってつくづく自然の邪魔して生きてるなあ」と思ったが、だんだんとそれも含めての「自然」だという気になる。「遺跡」だって廃墟なわけだし。

元町映画館が気に入って行っているのはやっぱり映画が見たいからで、そういえば最近新作ロードショーの映画を心待ちにして観ることがなくなっていて、はやくあれ観なきゃ、って映画は久しくない。アメリカも日本もマンガの映画化ばっかりで、映画は乗って楽しむアトラクションでしかなくって、感じて考えるものじゃなくなっていて、それでも別にええけど、ちゃんとした映画が見たい人には見れる場所が神戸にはあるってのがうれしい。