奥さんがふと口ずさむ。薬師丸ひろ子「メイン・テーマ」。
♪ 愛って よくわからないけど
傷つく 感じが素敵
笑っちゃう 涙の止め方も知らない
20年も生きて来たのにね ♪
20年?
この歌の語り手である女性はまだ20歳なのである。衝撃を受けた。
なんと大人っぽいことか。「もうハタチだっていうのに、あたしまだ泣いちゃうなんてガキよね」な感じである。こんな20歳、今の世の中にいたらお目にかかりたい。絶対にいない。今の子なら、むしろ子供のように泣く様子を自分のピュアさとしてアピールするであろう。
もちろんこの歌詞の女性だって、ほんとはそんなに大人なわけではないのかもしれない。「あたしったらガキね」に見られるのは、自分をなんとか大人に見せたい、という「背伸び」である。だからほんとはまだ子供だ。
でも、そこからわかるのは、この時代、昭和歌謡の80年代までは「大人」があこがれの対象だったという事実である。みんな「大人」になりたかった。だから「ガキ」は軽蔑されたんだ。
それから四半世紀、今「大人」はいない。自分も含めて。みんな子供のままでいたがる。幼稚な一次的欲求を肯定して恥じることもない。
いつのまに日本の社会はこれほどまでに成熟を拒むようになってしまったのだろう?
昔は大人は絶対的に偉かった。制度として年功序列だとか3世代にわたる同居とかが普通だったから歳をとっている=偉い、でその制度がおっさんの自 己規定にもなって内面化され、おっさんに幼稚な振る舞いは許されなかった。結果、おっさんは大人な振る舞いを義務付けられた。そういう社会的制度が外され て自由になったのはよいことである反面、結果、みんなが幼稚になっちゃった。
素敵な「大人」になりたいものだ。
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