そもそもぼくがケレットの作品をはじめて読んだのはたぶん2007年か2008年のことだから、もう7,8年も前のことになる。"Crazy Glue"を読んで「ヘンなの(笑)」と思い、気になってネットで調べたらwikipediaにいかにもシャイそうな笑顔の男の写真が載っていた。
あー自分と歳も近いんだなあ。でも、イスラエルか、アメリカじゃないのか、じゃあ縁がないな、そう思った。ぼくは一応アメリカ文学研究者なので、アメリカの作家であれば研究の材料にするとか翻訳するとかいうこともあるかもしれないが、イスラエルだと関係がないし、それによく見てみると自分が読んだ「クレイジー・グルー」(瞬間強力接着剤のこと)はヘブライ語からの英訳だから、原文も読めない。それで忘れた。
ところがそのあとにも彼の作品を何度も目にすることになる。McSweeney'sなどで。「チーザス・クライスト」を読んで笑って、これ書いたの誰?と調べてみると見覚えのある名前である。ググってみると、またこのシャイそうな男の写真が出てきた。これはもう自分のための作家なのだと思った。自分はこの人が好きなのだと。
そこから英訳された作品を取り寄せて読んではどんどんハマり、そうするうちに世界各国で30以上の言語に訳されている彼の作品が日本では一冊も出ていないことに不満を感じるようになっていった。なんとかせねばと思って、知人のつてを頼り出版社に掛け合った。ヘブライ語から訳す人が誰もいないのなら英語からの重訳でもいいのではないか、やらせてほしいと。ケレットの存在しない日本より、多少意味が屈折していようともケレットの読める日本の方がいいと思ったのだ。
結果的に彼の最新短編集『突然、ノックの音が』がヘブライ語からの母袋夏生さんの訳で新潮社から出版されることとなる。ヘブライ語で訳せる人がいないのではなく、母袋さんもおそらくずっとこの才能を日本に紹介したいとはたらきかけてこられていたのだと思う。それを形にしてくれた新潮社にも感謝だ。
1年前、2014年の東京国際文芸フェスにケレットが来日すると聞いて駆けつけた。本谷有希子さんとの対談で、今や芥川賞作家の小野正嗣さんの司会だった。しかし当時はケレットの名前はほとんど日本では知られておらず、ということは会場の渋谷タワーブックスに集まったオーディエンスのほとんどは本谷さん、あるいは第二部の江國香織さんやジュノ・ディアスが目当てであり、ケレットさんの話を期待している人がいるとはとても思えない。これはケレットさんにはかなり厳しい状況だ。なんとか日本にも読者がいるのだと知らせたい。ぼくはお気に入りの短編集 The Bus Driver Who Wanted to be God を持参し、客席から本の表紙を掲げて見せた。あなたの読者、いますよ、と言いたくて。
この表紙のpictographも大好きで、Tシャツにしたいくらいである。 |
終わってからちょっとだけしゃべってサインをもらった。名刺を渡し、そこから交流が始まった。
はじめて見たときはびっくりしたこのサイン |
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