2016年12月26日月曜日

カワイオカムラ展覧会『ムード・ホール』at @KCUA



 魚を捕ってもヘコヒョン・・・

ヘコヒョンが頭の中にとりついているのでヘコヒョンを見ないように努めているのだが、見ないように見ないようにとすればするほど視界の隅のヘコヒョンが気になる。「その行為自体がヘコヒョンであろうが!」と頭の中のヘコヒョンに言われた気がし、「ヘコヒョンとは私自身のことか、なあんだ、よかったね」とやりすごしてみたが、慰めにもならない。

数週間前にシングルレコードジャケット大の謎冊子が送られてきて、なんだろう?と中を見てみるとカワイオカムラというアーティストの展覧会のフライヤー、なかのライナーノーツのような文章の署名は「福永"スーパースター”信」とある。作家の福永信さんである。へんてこなことばかりしている人だが、今度は"スーパースター"になったようで「スーパースターか、いいなあ」とため息。
なつかしのシングルレコードのジャケットサイズ

いよいよ'スーパースター’にまでのぼりつめたようだ  
 どうも展覧会会期中に映像ライブがある模様。なんだか面白そうなので京都まで行ってみることに。スーパースターも用があるというので待ち合わせることになる。

 日曜でクリスマスである。どことなく人々が浮かれている気がする。お昼に一人でステーキを食べに行ったら昼からワインでいい感じになった兄ちゃんが知らないおばあさんの勘定を「払っといたから」と大盤振る舞い。「酔っぱらって気が大きくなっている」とも、人に親切にする「クリスマス精神」とも取れよう。

 JRに乗っていざ京都へと向かうが、どうも時間を読み間違えたっぽい。新大阪で、これは約束の時間に間に合わないと判断し、新幹線を使うという手に。機転を利かしたつもりだったが、新幹線のきっぷ売り場が長蛇の列。なんだよ。シンデレラ・エキスプレスか!

 30分遅れて会場に到着。福永さんは私の遅刻にも動じない落ち着き。スーパースターらしい。一緒に展示を見る。

 事前にフライヤーを見ていたので「この人たち絶対プロレス好きですよね」と聞いてみる。だって、ロード・ブレアーズって名前があちこちに出てくるもの。PWF会長で全日のタイトルマッチではいつも名前を耳にしていたロード・ブレアーズ。顔は覚えていない。『四角いジャンル』は『四角いジャングル』からだろうし。やはりプロレス好きだそうで期待が高まる。

 「AMAZON」「スーパースター」 、そして動画作品の「コロンボス」。刑事コロンボみたいな人がいてロード・ブレアーズが射殺される場面がスローモーションで展開される。その隣に分割された画面ではコロンボが遺体を空中浮遊させたかと思ったら降ろしたり。でもコロンボ1人じゃなくってもう一人いる。よく見るとこの対になった二つの世界は対角になっていて、さらにもう二つ、計四つの世界があるようにも見える。最初に倒れていた遺体は女性だったけどあれはなんだったんだろ?理解しようとするけど結局わからない。今もわからない。

この構造は新作の「ムード・ホール」のダンスしている部屋の絵にも共通していて、左側の絵と右側の絵の両方で二人の男がダンスに興じており、同じ部屋を別の面から見ているのか?(そのうえさらに別の角度から見ていると思わしき絵画が右の部屋にかかっている)と思うのだけれど、だとすると片方にだけいる人だとかプールみたいに見える水の部分とかの違いが説明がつかない。不思議。不可解。

次の「ヘコヒョン・ドリル」。ここから観客はヘコヒョンに取りつかれることになる。ここで流れるナレーションのテクストがいいのだ。正確には再現できないのだけれど、「虚」の「実」と「実」の「虚」、その二項対立がお互いをウロボロスのように食い合った状態?なのかなあ?fictionの地底が盛り上がってできた、なのかなあ?謎がどんどん増殖していく。ヘコヒョン自体がわからないし、「ヘコヒョンにならなければいけない」とか「魚を捕ってもヘコヒョン」とかどんどんぐるぐるになっていく。ヘコヒョンだけでなくその周辺でも周到に、意味を確定させないテクストが張り巡らされている。リングを見守って大声を上げるのは「としちゃん」。名前になんらかの意味があるのか?なんで「としちゃん」?とか思っていると、「組み合う3人の男を見ながら」って、リングの上は普通4人か2人であって、なんで3人?「時間ないぞー!なんの時間だっけ?リアル元年か」。試合のタイムアップを間近にして叫ぶ「としちゃん」の声援の意味がまたしても横滑りされていく。

ナンセンス!

「ヘコヒョン」は盲点みたいなもので、「ある」けど見えなくって、そこにはなんでもあてはめることができる。「文学」とか「アート」とか「プロレス」とか。でもどれとも確定することはできない。だって「ヘコヒョン」だから。あーおもしれー。

「虚」の「実」と「実」の「虚」はまさにプロレスがそうで、見えている現象は「虚」なのか「実」なのかわからない。そのたたかいはリアルに見えても(リアルファイトとは違うという意味で)フェイクなのだ、ともいえるし 、フェイクに見えてもリアル以上に失敗が許されないリアルな部分もある。骨が折れたってshow must go onなのだから。そしてそれを見守る観客たちの中にも「虚」と「実」がないまぜになる。どこまでいってもどっちかには確定できない。観客はそのぐるぐるをまるごと受け止めるしかない。

夜には映像ライブがあってご本人たちも登場してライブで作品を見ることができた。「コロンボス」をまた見たけど、やはりわからない。「わからないでいいのだ」とも言えるけど、考え続けなきゃおもしろくない。意味は鑑賞してる方が作るのだから。

新作の「ムード・ホール」の箱庭的な入れ子の世界はこれからもっと広がっていくようなので楽しみ。そして私はやっぱり「ヘコヒョン」である。

あーおもしれー。

魚を捕ってもヘコヒョン・・・

スーパースターたちと
1月にもまたライブがあるという。また行こう。

詳しくはこちら。






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