2013年8月14日水曜日

『風立ちぬ』

 これは詩だと思った。

 主人公二郎の人生には震災が起き、結婚があり、妻の病があり、戦争があり、そして死がある。エンジニアとしての夢を追うことと妻との生活、どちらを選ぶべきか。飛行機へ傾けた情熱は美しいがそれは戦争の道具ともなった。幸福なのかそうじゃないのか。そういった対立にこの作品は一切答えを出さない。人生の転機となるような出来事のそのたびに葛藤がなかったはずがない二郎のその心理を極力描かないことで、生きることのありさまをむき出しに提示している。どうするのが正解なのかはわからない。ここにはわかりやすい教訓やメッセージはない。しかし「生きる」というのはそういうことではないか。「生きる」ことじたいがそうであるように、この物語の膨大な空白は見た者がそれぞれに埋めればよいのだろう。 

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